CROSS TALK

修成建設専門学校&
ベネッセグループ進研アドの教育対談

SDGsを見据え、持続可能な社会で
活躍する人材を育成


見邨 佳朗(左)

修成建設専門学校 副校長

一級建築士。ヘリテージマネージャー、認定まちづくり適正建築士、被災建築物応急危険度判定士。ハウスメーカー、意匠設計事務所を経て独立。副校長、修成教育研究所所長、建築学科長兼務。公益財団法人建築技術教育普及センター建築士定期講習講師。一般社団法人奈良県建築士会会員、まちづくりNPO法人八木まちづくりネットワーク理事。修成建設専門学校卒、大阪教育大学大学院教育学研究科修了。

田邉 心技(右)

ベネッセグループ(株)進研アド 取締役

ベネッセコーポレーション高校事業部で名古屋支社、北陸支社を経て、首都圏エリア・学校担当責任者として、数々の高校の教育改革支援に携わる。その中で、数多くの生徒・保護者講演会、高校教員向け研修会を実施。2015年より現職。

修成の新たな「変革」とは?

田邉:昨年に続いて2回目となる「専門学校での職業教育」についての対談(コラム❶)、どうぞよろしくお願いいたします。このコロナ禍の2年間、社会は大きく変わりましたが、貴校の教育方針や環境にはどんな変化がありましたか?

見邨:「建設」の総合専門学校として創立110年以上の歴史ある本校ですが、コロナ禍を機に、これまでの「当たり前」を一から見直すことにしました。教育方針の一つでもあるアドミッションポリシー、ディプロマポリシーについても、より受験生に伝わりやすいよう表現を再考、それをアイコン化し(コラム❷)、根本からのイノベーションに取り組んでいます。また、教育体制では、対面を基本としながらも、オンライン学習の新たな可能性を追求し、本年度の新入生から全員がノートパソコンを持つなど、ICT教育を加速させています。

田邉:職業教育においては、対面での技術指導などが重要だと思われますが、オンライン学習にはどういったメリットがありますか?

見邨:オンラインの良いところは、「繰り返し学習」ができることです。本校は、授業以外にも多数の資格対策講座を開講していますが、すべての講義を録画してオンデマンドで配信しています。学生たちはいつでもどこでも何度でも、深めたい内容を復習できます。また、夜間の学科でも試験的に、一部の授業をライブや録画で配信し、仕事などで休んでしまった社会人学生の方々が、学習に遅れをとらないように努めています。

田邉:これまでにない多様な学び方が実現しつつある、ということですね。そうしたイノベーションを進める上で、何か意識していることはありますか?

見邨:やみくもに変えるのではなく、計画性をもって、「めざす将来に向かって、今 進み続ける」こと。そこで、2030年を基点とした学園ビジョンを新たに策定し、イノベーションの核となる4つの行動指針を掲げました(コラム❸)。その一つが、SDGs「社会の持続可能な発展に貢献しよう」です。

田邉:SDGsについては、多くの教育機関でさまざまな取り組みが行われていますね。貴校ならではの特徴的なプログラムはありますか?

見邨:本校には、コロナ禍の2021年、学園祭の代替イベントとして初めて開催した「Sゼミ」があります。「みんなでSDGsを考える日」にしようと、学生の興味を引きそうな企画を教職員たちが考えて準備し、誰もが知る企業のご担当者からSDGsの取り組みについて伺う講演や、身近な先生によるワークショップなどを開催しました(コラム❹)。おかげで、8割以上の学生から「面白かった」「考えるきっかけになった」というコメントが寄せられ、この2022年6月にも第2回が開催されました。


学生たちが制作したAR(拡張現実)対応の
Sゼミシンボルモニュメント

2021年からスタートした
「Sゼミ」とは?

田邉:とても魅力的な取り組みですね。どういったところが成功につながったと思われますか?

見邨:学生目線で考える、ということでしょうか。「まだ自分たちが知らない企業の内部で、実際にがんばっている人から話を聞けたら」とか、「いつも建設のことばかり話している先生が、こんなに環境にも詳しいなんて」とか。好奇心のきっかけさえつかめば、一つひとつの内容は、日頃の学びと深く関わることばかりですから。

田邉:「建設」の学びと「SDGs」って、一体どんなつながりがあるのでしょう。パッとイメージが湧かなくて…具体的な例を教えていただけますか?

見邨:例えば、建物や庭園の材料となる“木”。教科書では「強度」や「特性」にしかふれませんが、どこでどう育ち、伐採した後の土地がどうなるかまで知ると、向き合い方がまるで変わります。他にも、住居、学校、店舗、ダム、公園など…建築・土木・造園そのものが、人が生きる環境をつくりだす仕事ですから、SDGsとは切っても切れない関係だといえます。

田邉:言われてみれば、その通りです。そうした気づきを、学生にも体感してもらうためのゼミなのですね。「Sゼミ」を開催したことで、学生たちの意識や学習姿勢に、何か変化はありましたか?

見邨:学生一人一人がSDGsへの理解を深められたのはもちろん、教員とのつながりにも良い変化があったと感じます。本校の教員の中には実務で「環境共生」に携わっており、もともとSDGsについての知識も豊富です。「Sゼミ」をきっかけに学生が基礎知識を付けたことで、それらを普段の授業や会話で発信できる機会が増えたんです。

田邉:そうすると、「Sゼミ」以降も継続して、SDGsへの関心や知識を深められそうですね。

見邨:まさに、昨年や今年の卒業制作では、「地域」や「ジェンダー」をテーマとした素晴らしい学生作品が賞に輝きました(コラム❺)。また、「Sゼミ」のプログラムに数多く参加した学生には、「修成SDGsアンバサダー」の称号を授与しました。そうした活動実績やプログラム内で手がけた作品を、就職活動の自己アピールやポートフォリオ(作品集)に盛り込んでいる学生もいます。


修成建設専門学校
副校長 見邨 佳朗

多職種連携
共創チャレンジとは?

田邉:どの企業もSDGs活動への注目度は高いですから、良いアピールになりそうですね。「Sゼミ」の他にも、SDGsに関する取り組みはありますか?

見邨:2025年の大阪・関西万博における「TEAM EXPO 2025」プログラム/共創パートナーとして、本校が登録されました。そのなかで取り組んでいるのが、西淀川区役所と本校のガーデンデザイン学科全員がともにつくる、「大野川緑陰道路みらいへつなげるみちプロジェクト」(コラム❻)です。こうした共創チャレンジを、今後もどんどん生み出していく予定です。

田邉:学科全員で官学連携に取り組むなんて、とてもいい経験になりそうですね。中には、学科を越えたチャレンジもあるんでしょうか?

見邨:もちろんです。特に活発なのは、「GATUN! PROJECT」という学科の枠を越えたクラブ活動で、今現在も、高齢者施設の運営会社、保健福祉の専門学校、そして本校の3者が連携して老人ホームの部分改装を行う、産・学・学の多職種連携プロジェクトが進んでいます。

田邉:専門学校でありながら、ここまで他との連携に力を入れているところは珍しいかもしれませんね。連携による学習を重視するのは、どのような理由からですか?

見邨:卒業して社会に出たら、さまざまな職種のパートナーと連携するのが当たり前で、それを学生のうちから経験できるのは何よりの学びです。しかも、こうしたプロジェクトでは、実際にプロが関わる現場に飛び込むわけですから、今の自分に何が足りないか、どういう分野が向いているかなど、身をもって感じられます。

田邉:なるほど、近い将来における進路選択にも活きてくる、というわけですね。

見邨:将来を考える上で、視野を広げておくことは大切です。「やりたいこと」「できること」はもちろん、「できないこと」も理解してほしい。SDGsについては各学科でも学んでいますが、そのなかで「自分たちに何ができるか」と同時に、「自分たちだけではできないことがある」と知ることが、社会との連携、共生を本気で考える心につながると思っています。

田邉:SDGsへの関心を含め、建設分野への進学を考えている高校生に対して求める姿とは、どのような高校生像でしょうか?

見邨:まずは身近なことから興味を広げ、自分なりの考え方を持っていてほしいと思います。あとは本校に来てから、いろんな意見の人と出会い、互いを尊重しながら、成長してもらえたら。苦手な方の多い数学をはじめ、学力やスキルの部分は、入学後にしっかりカバーできます。もちろん、学費面の支えも充実しているので、ぜひ安心して踏み出してください。

田邉:専門学校と聞くと、「個人主義」「スキル重視」といったイメージがありますけど、まったくの正反対なんですね。

見邨:そもそも建設というのは、個人であれ企業であれ、相手の大切な財産を一緒につくりだす仕事です。相手を思いやり、理解することができなければ、信頼されるプロフェッショナルにはなれません。だからこそ、「高い人間力」を備えた「専門の技術者」を育成する専門学校の職業教育が、これからの社会でも求められるはずです。


ベネッセグループ 進研アド
取締役 田邉 心技

SDGsを通して育成したい
「人間力」とは?

田邉:SDGsは学び以外にも、学生の「人間力」を成長させるために役立っていることはありますか?

見邨:さまざまな取り組みのなかで社会の第一線で活躍する教員たちとの対話は、本校ならではの強みです。教科書どおりに教えるだけなら、他のどの学校にもできます。先生方は、現場で直面した課題や仕事の喜びなど、教科書には載っていない自身の経験を付け加えてくれます。成功体験ばかりでなく、時には失敗談も。

田邉:失敗談も、ですか。自分が失敗したことを多くの学生の前で話すのは、ちょっと勇気がいりそうですね。

見邨:日頃の信頼関係があればこそ、でしょうね。あえて苦い経験を語ることで、実践への心構えはもちろん、「それでもこうして活躍できるのだから、失敗を恐れることはない」というチャレンジ精神を伝えられます。実際に、建設のような大仕事では、いくつもの失敗が起きますから。

田邉:大学にはない「職員室」の存在も、学生とのコミュニケーションづくりに役立っているのでしょうか?

見邨:そうですね。いろんな学科の先生が同じ空間にいるので、学生だけでなく学科間も連携がとりやすく、学科横断のプロジェクトもスムーズに進みます。また、「クラス担任制」も、初めて学ぶ人には心強いサポートとなるでしょう。

田邉:入学にはじまり、一つひとつの専門学習や、就職活動の進路指導まで。あらゆる場面で、先生が大きな支えとなってくれるのですね。

見邨:普段から身近に接しているからこそ、進路の相談を受けた時も「君はこの分野の方が力を発揮できるのでは?」と、生きたアドバイスができるんです。学生の方も、信頼する先生に背中を押されることで、自信を持って新しい世界に踏み出せるでしょう。


「Sゼミ」講演収録の様子

成長を後押しする「進路」
「資格」サポート
とは?

田邉:進路といえば、コロナ禍が続くなか、企業からの求人社数はどのような状況になっていますか?

見邨:おかげさまで、本校宛の求人社数は順調に伸び続けています(コラム❼)。もちろん社会情勢もありますが、卒業生たちの活躍があってこその高い数字。求人社数の増加は、本校の卒業生が評価されている証しだと、誇らしく受けとめています。その卒業生自身が、「うちで働きたい後輩はいませんか?」と先生のところへ相談しにくるのも、卒業生を通じて企業とのつながりを強め、就職をサポートする本校ならではの強みです。

田邉:卒業しても続く先生との深い絆や、学校の人材育成に対する信頼感がうかがえます。ところで、新設学科においても、初の合格者を輩出されたそうですね。おめでとうございます。

見邨:ありがとうございます。2021年度の一級建築士試験において、「専科1級建築士科」から2名の合格者を輩出しました(コラム❽)。うち1名は飛び級で、最年少合格者となりました。受験者の中には、学科試験の点数がわずかに及ばなかっただけの学生もいたので、この結果に甘んじることなく、学生へのサポートを強化していきたいと思います。

田邉:一級建築士試験は、全国の合格率が1割を切る難関ですから、それを大きく上回る快挙だといえますね(コラム❾)。お話を伺うと、来年の成果がいっそう楽しみになります。

見邨:2022年度から「修成教育研究所」を新設し、在学中に取り組める資格についての情報やサポートを体系化しました。「どんなタイミングで、どの資格にチャレンジすればいいのか」「そのためにどんなサポートを受けられるか」一人一人の進路に応じてわかりやすく発信していくので、修成からの資格取得者がさらに増加するはずです。

田邉:期待はふくらむばかりですね。では最後に、これからの時代に求められる職業教育とはどのような教育だとお考えでしょうか?

見邨:修成の未来への想いは『つくるを 創り 続けて 繋がってゆく』ということです。在学中の教育だけではなく、卒業後もさらなる資格取得や就職においてサポートを続けて修成と卒業生が繋がり、それを社会の未来へと繋げていきたい。まさにSDGsを意識した持続可能な教育をめざしていきたいと考えています。