2014年、修成建設専門学校ガーデンデザイン学科を卒業後、株式会社奈須造園に同社初の女性社員として入社。以来、公園の年間管理や植木のメンテナンス、植栽工事、公園工事、庭施工、外構などの施工管理や作業に幅広く携わる。2018年より、大阪府豊中市にある国指定名勝「西山氏庭園(青龍庭)」の管理も担当。
現在、公園の年間管理や、個人宅の植木のメンテナンスや庭施工、植栽工事、公園工事など幅広い仕事を担当しています。その中で、昨年から任されているのが豊中市にある「西山氏庭園(青龍庭)」の管理です。この庭は個人の邸宅の庭として、東福寺の方丈庭園など有名な庭を多数手がけた著名な作庭家・重森三玲氏が設計したもの。昭和初期につくられた枯山水庭園で、白川砂で表現された枯流れに飛石や舟石などが配置されています。このように計算された石の配置はもちろん、庭全体に多数ある石の中には、現代ではなかなか見られないものもある大変貴重な庭で、2019年に国指定名勝となりました。管理を始めてまだ約1年、庭をより美しくするための選択肢はたくさんあるので、最も美しい姿を常にイメージして管理することが大切です。歴史的に貴重な庭の管理に携わる大きな責任を感じながらも、長く受け継がれてきたものをより美しい状態で後世に受け継ぎ、見る人に楽しんでもらいたいと考えながら管理しています。
他にもさまざまな個人宅の庭の管理を任されています。毎年訪問している現場が多く、行くたびに違う表情になっているのを見られるのが生き物を相手にする仕事の醍醐味。個人宅の庭は、私たちの手入れの後にお客様自身が植物を植えたり手入れをしたりして楽しまれる場合もあるため、細部までこだわりながらその基礎をつくるというイメージで進めます。私より植物に詳しいお客様もいるので、いろいろとお話しするのも毎年の楽しみです。私が勤めている株式会社奈須造園は大正時代の創業で、お客様も会社の近隣を中心に古くからお付き合いのある方が多いのが特徴。そのため庭も和風のものが多いのですが、「あの大きな松の木が植わっているお宅」と言えばすぐに思い出せるほどそれぞれに個性があり、どの現場にも思い入れがあります。お手入れ後に「キレイになったね、ありがとう」と声をかけていただけるのはやはり大きな喜び。女性の技術者は珍しいためすぐに覚えていただけて、顔なじみになれるのもうれしいですね。
そもそも私が造園に興味をもったきっかけは、実家の庭で母と祖母がたくさん植物を植えており、緑に囲まれて育ったから。自然と緑が好きになり、子どもの頃は草むしりなどの手伝いもよくしていました。高校時代、進路を決める際にいろいろ調べているうちに、緑を増やし、育て、つくる仕事があると知り、私も挑戦してみたいと考えて修成に入学しました。修成での学生生活では、どんどん外に出て学んだという印象が強く残っています。授業で頻繁に庭園の見学に出かけたことが思い出深く、その中でも特に好きだった京都の「無鄰菴」の借景の庭が、周りの景色と重なり合って庭の風景をつくり出している様子を今でもずっと覚えています。学生時代に多くの庭を見た経験は大きな財産。今でも仕事中に「あんな庭にしたい」「こんな技術ができるようになりたい」と思い出すこともあり、アイデアの源にもなっています。
私は出身高校がもともと男子校だったということもあり、修成での学生時代も含めて常にクラスでは女性が1〜2名という環境で過ごしてきたため、男性が多い建設業界にも抵抗なくなじむことができました。会社で初めての女性社員として入社し、体力的なハンデはありますが、職場の仲間がサポートしてくれて本当にありがたいです。ハンデや女性の少なさを考えるより、まず大切なのはやる気や意欲。女性にもぜひこの業界を志してほしいですね。また、当社には海外出身の後輩がおり、歴史ある会社ながら女性や外国人を受け入れる先進性もあります。現場にも女性や海外出身の人が徐々に増えてきているので、今後もこうした多様性の中で働く流れは加速していくのではないかと思います。
造園の仕事は刻々と変化する生き物を相手にするため、完全な完成形はありません。しかし、どのような状態ならより美しいのかという理想をイメージすることはできます。お客様の要望を聞きながら「理想形に近づけるために今何をするべきか」を考えて手入れをすることが重要で、ここが造園の難しさや奥深さであり、おもしろいところ。例えば、個人宅の庭は毎年細かく手入れするのに対し、公園の管理は必ず毎年行うとは限らないため、2〜3年の間隔が空くことを前提に思い切って短く剪定するなど、より先を見通した仕事が必要です。一緒に現場に入っている先輩の姿を見ていると、イメージをより明確にもって作業を計画し、進めていると感じます。それはさまざまな現場を経験し、多くの植物を見てきたからこそできること。就職して6年目になりますが、この仕事は想像以上に頭を使い、さまざまなところへの気配りが大切だと改めて感じます。まだまだ学ぶことはたくさん。今後も多くの経験を積み、引き出しを増やしていくのが楽しみです。
四季の移ろいをこんなにも肌で感じられる仕事はなかなかなく、毎日が新鮮で飽きることがないのも造園の魅力。そして、この仕事をするうえで欠かせないのが人とのつながりです。経験を積むほど人の輪が大きく広がり、それがまた仕事への意欲をかき立ててくれます。たとえ小さなスペースでも、緑が1つあれば空間はより豊かになるもの。今後もお客様に喜びや感動を提供できるような庭をつくっていきたいですね。緑の潤いの良さや大切さを、より多くの人に伝えていけるようになりたいです。
- 【登録文化財 西山氏庭園】
- 昭和初期に先代当主・西山丑之助氏が著名な作庭家である重森三玲氏に依頼して作庭。「青龍庭」と名づけられた主庭は伝統的な枯山水庭園で、枯滝石組から優美な曲線を描く白川砂の枯流れと、立体構成の石組が印象的である。
- 【二ノ切池公園】
- 農業用水に利用されていた二ノ切池を埋め立て整備された公園。見どころの一つである豊中市内最大のバラ園で、四季ごとに咲くバラを管理。多品種が美しく咲き誇る姿が人々の目を楽しませている。
- 【平塚公園】
- 大阪府豊中市にあり、ユニークな複合遊具が印象的なことから「ロケット公園」と呼ばれ家族連れに人気の公園。子どもたちがケガなく安心・安全に遊べるよう、細部に工夫を施した。