株式会社浦辺設計 八坂 真希子の仕事

完成したものと、
これからつくるものの
つながりが建築の面白さ。

公共施設やホテル、学校などの改修や新築を多く手がける設計事務所に勤務し、いくつかのプロジェクトを手がけてきました。現在は京都府長岡京市にある小学校の改築設計で、構造設計と設備設計の協力事務所の方々との調整を担当しています。設計の進め方としては、先生方とのワークショップを行い「どの様な使い方をするのか?」や「どんな学校が良いのか?」などの話を進めていく中で、『他にない学校』をめざしたいという意見まで出てきました。そして、これまで他の物件で先生や地域の方々を対象にしたワークショップを行ったことはありますが、今回は初めて子どもたちのワークショップも開催。「こんな場所が好き」「こんなふうになってほしい」など自由に話し合ってもらい、私もそのサポートを行いました。もちろんすべてを実現できるわけではないのですが、みんなで一緒に新しい校舎をつくる実感を持ってもらえるのがいい点だと思いました。少しでも「あの意見はここに反映されていますよ」と示せるようにしたいと考えています。

実際に、子どもたちからはアスレチック的なものがほしいという意見があり、そこで遊具を十分に設置することにもなり、図書館を強化した形の「メディアセンター」にも吹き抜けをつくり、2階とのつながりを感じられるような小さな仕掛けを盛り込みました。
近年、各地でこうしたワークショップが行われていますが、私たちがこの形態を取り入れるようになったのは、建物に対するご要望が管理者側の考えにかたよっていないか、新しいものをつくるにあたって自分たちの経験だけを頼りにしていいのかという思いもあったからです。この物件でも、子どもたちを含め多くの人と話し合うことで学校との協力体制が強くなり、大きな効果を感じています。

また、構造設計の実務でも細かな調整を行いました。RC構造では小梁が天井内に出てきますが、建物の高さを抑えようとするとエアコン類との調整が難しいという課題がありました。そこで小梁をなくすための特殊な工法を取り入れることに。それによって全体の工期が短縮されるなどのメリットも得られました。
この現在担当している物件に生かされているのが、2019年に大阪府四條畷市で2つの中学校を同時に増改築したプロジェクトでの経験です。どちらも校舎の改修をしつつ、片方は体育館とプールの増改築、片方は隣接する小学校との交流の拠点となる教室棟を新築するというものでした。このプロジェクトは設計段階から施工者に入っていただくデザインビルドという形態で、最初から施工方法も含めて検討を重ねました。私にとって初めて現場監理をした物件で、図面が形になる過程を目の当たりにした感動を覚えています。プロジェクトの最初から最後までモノづくりの順番を体感し、建物の中身や、施工の詳しい様子を知ることもできました。それ以来設計の際には、自分が今描いている線が何を意味するのかが今までよりクリアになり、図面を描く上で実現性にもより意識を向けられるようになりました。こうして完成したものとこれからつくるものが少しずつつながって、今度はこうしてみようと考えながら取り組めるのが、この仕事の楽しさだと思います。

“いい建物”とは、求められていること+αで応えられたもの。

最近はネットや書籍などで情報を得やすくなり、建物についての知識が豊富なお施主様も増えています。多様性やSDGsなど情報の幅もどんどん広がっているため、大量の情報を整理して取捨選択するのが私たち設計者の仕事であり、何が本当に必要かという見極めが大切だと感じます。とはいえ情報を整理して図面に落とし込むという基本は変わらないので、今後もお施主様を含めた、みんなで建物や空間をつくり上げていく姿勢を心がけたいですね。私にとって”いい建物“とは、求められていることに応えられたものだと思っています。ご要望に全力で向き合って応え続け、そこにお施主様の期待以上のものをプラスできるような仕事をしていきたいです。

多くの人で何かをつくり上げることを意識したのは修成の学生時代です。専科に進学した年、創立100周年を前に文化祭を復活させようと、みんなで企画・制作に取り組んだ毎日がとても充実していたからだと思います。ほかに強く印象に残っているのは、先生から「出された課題をこなすだけではなく、そこから興味を広げ、楽しみを見つけなさい」と、課題を提出するたびに言われたこと。当時は多くの課題を終えるのに精一杯で、そんな余裕はありませんでしたが、社会に出て仕事をする中で、先生の言葉の意味をじわじわと理解できるようになりました。設計という仕事は自分の世界に入り込んでしまいがちですが、実は他者と意見を交わしたり協力することで多くの気付きがあり、さまざまな事柄への興味に課題解決の糸口が散りばめられているのだと実感します。ひとつのプロジェクトに多くの人が関わってブラッシュアップしていく過程はとてもやりがいがありますし、そういった総合化こそが建築の醍醐味だと感じます。建築とは建物だけを指すのではなく、周囲の環境をつくることや、さまざまな発信をすることでもあり、建物のことを学ぶだけでいい設計ができるわけではないと、経験を積むたびに感じます。学生のみなさんには、興味のあることにどんどん挑戦して視野を広げ、何でも楽しむことを大切にしていただきたい。将来、それらが自分の想像力の源になると思います。

Works 01 四條畷西中学校・四條畷中学校

四條畷市の学校再編に伴う増改修。校舎の改修と同時に、四條畷西中学校では体育館とプールを建て替え、四條畷中学校では隣接する小学校との小中連携棟を新築。学校ごとの魅力を引き出し、長寿命化の基礎となる設計に。

© Forward Stroke inc.

Works 02 門真市立門真はすはな中学校

「生徒の人格形成に寄与する風格と、街の活性化につながる多様な空間をつくること」を趣旨に設計。回廊校舎によって生まれた交流広場が街の人々を学校へと導き、明るい回廊は生徒がたたずむ小空間となっている。

© Forward Stroke inc.

Works 03 守口市立さつき学園

ワークショップを取り入れて設計を行った小中一貫校。吹き抜けやガラス空間を用いたアスレチックのような一面もあるメディアセンターは、幅広い年齢の子どもたちが楽しく交流を図りながら情報収集できる。

© Forward Stroke inc.

Profile 株式会社浦辺設計 
八坂 真希子
 建築士

2008年、修成建設専門学校建築CGデザイン学科卒業。同年、専科 2級建築士科に進学して二級建築士資格を取得。卒業後の2009年に(株)浦辺設計に入社。以来、設計担当として主に学校の新築・改築設計に携わり、現在は京都府長岡京市にある小学校の改築設計を担当。2021年4月より母校である修成建設専門学校で情報処理科目の補助講師も務める。一級建築士。

  • 影響を受けた建造物

    手塚建築研究所さんが手がけられた「屋根の家」です。天窓から上れる屋根にテーブルや椅子、キッチンやシャワーまでついているというもの。こんなことができるのかと驚いたと同時に、イメージの幅が広がりました。

  • 仕事への心構え

    多くの情報を取捨選択し、かみ砕いて、何が本当に必要で効果があるかを示すことを大切にしています。また、関わっている方々に丁寧な説明をするなど、自分で考えたことに対する責任に向き合うことも心がけています。

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