Creator's File 株式会社対馬造園店 津川 陽子の仕事

津川 陽子
株式会社対馬造園店 津川 陽子 Yoko Tsugawa

1994年、緑の学科(現:ガーデンデザイン学科)卒業後、明治36年創立の老舗、株式会社対馬造園店に入社。甲南大学岡本キャンパス、シスメックス株式会社の研究開発施設「シスメックステクノパーク」、神戸酒心館をはじめ、地元兵庫を中心にさまざまな庭園の管理・植栽に携わっている。

どんな小さな変化にも気づいてあげること。

庭園の設計や施工、管理などを手がけている株式会社対馬造園店に勤めています。私の主な業務は甲南大学岡本キャンパスに植わっている樹木の管理で、入社当初から20年以上続くライフワークになっています。毎日の水やりから、雑草引き、剪定(せんてい)作業などその業務は多岐にわたり、中でも特に気を使っているのが健康管理です。病気になっていないか、ちゃんと育っているか、日々注意を払いながら木と向き合っています。現在の園芸用薬剤は技術が進歩しているため、薬を使用すれば枯らしてしまうことは滅多にありませんが、木は生き物なので愛情を持って接することが大切。どんな小さな変化にも気づいてあげて、何を求めているのか理解しながら対応すること。そうすれば、本当に美しい姿を見せてくれます。愛情を注いだ分だけ応えてくれるんですよ。四季折々それぞれの姿でキャンパスを彩る様子は本当に感動的です。学生さんにも大変喜んでもらっていて、私が管理している樹木が4年間のキャンパスライフを少しでもステキなものにしていることを思うと、一層やりがいを感じますね。 愛情を持って接していきたいですね。木は生き物ですから。


性別の差はハンデではない。挫折から学んだ仕事への姿勢。

「女性でもやっていけるだろう!」と造園の世界に進みましたが、そこはやはり男性社会。入社した当時は、現在のように施工技術が発達しておらず、女性の私にとってはなかなか厳しい世界でした。まず、重たい物が持てない。それから、体力に限界がある。力仕事を求められる新人時代に体力が少ないことは厳しい状況。現場では元気に動ける人に仕事が回ってきますので、なかなか思うようにいきませんでした。これは、社会人になって初めて直面した挫折でしたね。
でも、一度この仕事に挑戦したからには、簡単に諦めるわけにはいきません。そこで、自分が現場に貢献するために何をすべきか改めて考えたところ、「女性だからできない」と仕事の幅を狭めるのではなく、「女性だからできる仕事」を見つけていこうと思ったんです。たとえば、松の古い葉を抜く「もみあげ作業」や樹木の細かな清掃作業など、女性ならではの繊細さが求められる仕事が、現場にはたくさんあることに気づきました。そこから、そういった仕事を見つけこなしていくうちに、巨木の植栽や現場の管理など、高い信頼を得ていないと任せてもらえない業務がどんどん回ってくるようになりました。造園の世界に限らず、どの業界でもそうだと思いますが、お客様や会社に貢献するためには、自分ができることには積極的に取り組み、その中で認められて活躍の場を広げていくことは大切ですね。そして、今ではこうして、なんでもバリバリやらせてもらっているわけです。


学生時代に知った褒められることの喜び。

幼い頃、宮城県の蔵王(ざおう)で暮らす祖父母の家に行って、山や川で遊ぶのが一番の楽しみでした。山は青々と川はキラキラと美しく、いつもうっとりしていたことを憶えています。そういった経験からか、中学生の頃には、将来は自然と触れ合う仕事に就こうと思っていました。しかし、「自然と触れ合う仕事」と言っても漠然としたままで、高校3年生を迎えたある日、たまたま修成の「緑の学科(現:ガーデンデザイン学科)」に目が留まりました。内容について深く調べもしないで、「緑」と付くなら、きっと植物を扱う勉強をするんだろうと思い入学しました(笑)。今でこそ、造園一筋に仕事をしていますが、この業界に進んだのはそんな単純な理由なんです。
学生時代で最も印象に残っていることは、授業で作った公園の設計図を先生が褒めてくださったことです。当時の私はあまり熱心な学生ではなく、授業中によく居眠りをしていて、先生から「そんなに眠たいなら、居眠り公園をつくれ!」と叱られたんですよ(笑)。先生は冗談だったそうですが、面白そうだと思った私は「居眠りができる公園」をコンセプトに、横になれるベンチや芝生を置いた公園の設計図をつくりました。予想外に先生がこの作品を高く評価してくださって、その時、褒められることの喜びを知りましたね。何気ないエピソードではありますが、この経験が仕事をする上で大きな糧になっています。誰だって褒められるとうれしいじゃないですか?そのためにも、とにかくベストを尽くそう、次はもっとがんばろうと思いますからね。そして、その繰り返しの中で、技術や知識、仕事への責任感が身についていくのではないでしょうか。 造園の世界に飛び込み約20年。まだまだ新人です。


木と共に、自然と共に一生をかけて極めていく仕事。

入社以来、たくさんの現場を経験しながら20年以上が過ぎましたが、まだまだ上司から教わることが多く、胸を張って自分を一人前だとは到底言えません。造園のプロとして自信を持って仕事をするためには膨大な知識と経験が必要です。たとえば、木を一本植えるにしても、その土地の気候や日当たり、一緒に植わる植物との相性、土の種類、植栽する季節など、それらすべてが最重要項目で、ひとつでも欠けてはなりません。扱う植物一種一種についての高い知識と長年の経験や勘も求められます。本当に何十年かかっても、なかなか極められない仕事です。逆に言えば、ずっと飽きがこない仕事です。これも造園の世界で働く大きな魅力だと思いますね。木や自然について学び続け、一生向き合っていく、なんて奥の深い仕事なんだろうと、日々魅了されています。

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