高等教育の新常識

職業教育の新たな価値を発見!

CROSSTALK

得意を武器に、
夢を仕事に変える職業教育。〜修成建設専門学校&
ベネッセグループ進研アドの教育対談〜

堤下 隆司

修成建設専門学校
学校長

専門は構造工学。建設を学ぶ専門学校生の業界における認知度や地位向上に尽力する。現在、全国工業専門学校協会副会長、全国専門学校土木教育研究会会長、並びに全国専門学校建築教育連絡協議会副会長。2015年4月より第9代学校長。博士(工学)

田邉 心技

ベネッセグループ
(株)進研アド 取締役

ベネッセコーポレーション高校事業部で名古屋支社、北陸支社を経て、首都圏エリア・学校担当責任者として、数々の高校の教育改革支援に携わる。その中で、数多くの生徒、保護者講演会、高校教員向け研修会を実施。2015年より現職。

SESSION 01 修成で学ぶ「建設」とは?

ベネッセグループ 進研アド 取締役
田邉 心技

田邉 本日は職業教育をテーマに、専門学校での取り組みなどのお話を伺いたいと思います。はじめに貴校の学習分野や特長についてお聞かせください。

堤下 本校は「建設」の総合専門学校です。建設というのは一般的に建築・土木の総称ですが、本校では造園を含めた3分野を指します。建築を学ぶ学校は多いですが、この3分野が学べる学校は少なく、そこは強みです。また創立から建設一筋で110年以上の歴史があること、卒業生が約37,000人いることも特長ですね。1カテゴリーでこれだけの卒業生を輩出している学校はかなり少ないと思います。

SESSION 02 入学前の高校生に求めるものとは? 入学前の高校生に 求めるものとは?

修成建設専門学校 学校長
堤下 隆司

田邉 貴校には、大学でいう工学部などを志す高校生が入学されると思いますが、入学者に求めるものとして大学とはどう違いますか?

堤下 多くの大学は学力を1番に求めますね。アドミッションポリシーでもふれていますが、本校では学力と併せて「意欲」も重視しています。
「意欲」とは、建設業界への興味や夢を持つこと。学力を含めたスキルの部分は、入学後の勉強でカバーできますから。あとは、ものづくりが好きであったり、仲間と協力して何かを成し遂げることが好きな人にはぜひ来てほしいと思います。

田邉 建設業界をめざす気持ちを大事にされているんですね。ただ、建設分野だと数学が苦手な学生にとって挑戦しづらいイメージもあります。入学者の学力や意欲の見極め方を含め、入試ではどのように評価されますか?

堤下 入試は主に面接で、一般入試では数学と国語の試験も行います。2021年からはベネッセの進研模試で志望校登録ができるようになりました。その中でも、「意欲」を重視するのは変わりません。面接でいかに「意欲」があるかを評価します。建設業界は分業制なので、得意分野を伸ばすことが大切です。だから文系の学生も多く在籍していますよ。意欲の見極めについては、面接時にルーブリック(評価基準)を設定して平等に評価するシステムをつくっています。そしてAO入試で合格した学生には入学前に事前授業を行い、早く勉強や学校に慣れてもらえるよう取り組んでいます。

田邉 ルーブリック化は大学でも例が少ない、素晴らしい取り組みだと思います。建設分野をめざす学生に広く門戸を開いていますね。一方で漠然と建設業界への興味はあるものの、まだ具体的なビジョンがない高校生も多いと思います。そういう方についてはどうお考えですか?

堤下 たしかに高校生にとっては建設業界自体がイメージしにくいと思います。従ってわれわれが高校生を相手にするときは、学校紹介ではなく進路・業界相談という形を取ります。業界を知ってから、将来のビジョンや進路の決定につなげてもらうという考え方です。またコロナ禍でオープンキャンパスの人数制限などをしていることもあり、個別相談をより大事にしていますね。

田邉 進路相談のサポートもしているんですね。では、入学時には学費も気になるポイントです。専門学校は私大よりも安いイメージはある一方で、奨学金などが充実していないと思われる方もいます。

堤下 私大の工学部と比較すると、卒業までの合計学費は約3分の1になります。また1年単位で比較しても約3分の2ですね。本校は高等教育無償化の対象にもなっていますし、奨学金制度、入学前資格等奨励制度、成績優秀者に対しての授業料10%減免や、学外コンペで結果を出した学生の特待生制度など、できる限りのサポートをしています。

田邉 学費面もかなり手厚いですね。次に女子学生にとっての環境はいかがでしょう? 男性のイメージが強い建設業界をめざす上で心配される方もいると思います。

堤下 男子学生も多いですが、空間デザイン学科など女子学生の方が多い学科もあります。またクラス担任を受け持つ教員の約3分の1は女性です。企業も女性建設技術者の雇用拡大のために福利厚生、設備投資、制度改善に努めているので、女子学生も安心して建設業界をめざしてほしいですね。

SESSION 03 建設業界に特化した 10学科設置の意図とは?

計画から施工まで学生たちでつくりあげた屋上庭園

田邉 貴校の「建設業界に特化した10学科設置」は大手の大学並みの特長だと思います。これにはどんな意図があるのでしょうか?

堤下 本校では、学生に「武器」を身につけてほしいと思っています。2年間という限られた期間で使える技術を習得してもらうために、学科を細分化してそれぞれに特長あるカリキュラムを展開しています。前述の通り、建設業界は分業制なので、優秀な人材になるためには各分野に特化した力が必要です。そういう意味では、入学時の学科選びはとても大切でね。

田邉 なるほど、入学時に「意欲」を重視する理由にもつながるんですね。ただ「意欲」を重視されることで、基礎学力には差が出てくると思います。勉強が苦手な学生へのフォローはどうされていますか?

堤下 まず入学時点で1年生全員に基礎力リサーチを行い、個々の学力や意欲について調査します。それを元にクラス担任と、必要に応じて学生相談室が連携しながら、学生に合わせて指導を行います。また教員と学生の距離感も大切にしていて、職員室をオープンな空間にしたり個別ブースを設けたりと学生が相談しやすい工夫をしています。

田邉 学生一人ひとりが安心して夢に向かえる環境づくりは大切だと思います。では応用的な学習について、大学では学部を横断したプロジェクト学習など実践的な授業をすることがありますが、貴校はいかがでしょうか?

堤下 本校では学科連携や科目連携を積極的に行なっています。例えば、計画の授業課題を設計の授業で取り扱うなど。GATUN!PROJECTなどの課外活動も活発ですね。もちろん産学官連携や実習にも力を入れています。このような取り組みは学生の意欲向上や経験という意味で重要ですね。

田邉 現場での連携を意識できる点で、実用的な取り組みですね。ただ、コロナ禍で連携や授業が通常通りできないことも多いのではないでしょうか?

堤下 そうですね。本校でも学びを止めないためにオンライン教育を実施しています。さらに今はオンラインを活用した新しい取り組みができないかと考えていますね。この間も大阪の有名な建築物である「日本橋の家」を360度カメラを使って撮影し、教材にさせていただきました。現場やショールーム見学などもオンラインで実現できています。

基礎力リサーチ 株式会社進研アド

※基礎力リサーチは、ベネッセグループの進研アドが行っているアセスメントです。

SESSION 04 学生にめざしてほしい姿とは?

田邉 これまで伺っていて、社会で活躍するための職業教育をされている印象を受けるのですが、逆に課題などはありますか?

堤下 もう少し時間があれば、学生はもっと成長できると思っています。建築でいうと設計課題などは、時間があればよりアイデアを練ることができますから。ただ、就学年数が短いから教育内容が中途半端かというと、そこは違うんです。専門学生は月曜から金曜までほとんど高校生と変わらない時間割で勉強しています。実は大学のカリキュラムから一般教養を抜くと、専門学校とほとんど授業時間は変わらないんです。

田邉 そうなんですね。職業教育という点では大学と専門学校はシームレスですね。高校生や高校の先生の中には、建設の専門学校というと、主に建設の施工現場で活躍する人材育成に特化していると考える方もいるので、これは気づきになると思います。

堤下 本校は優秀な建設技術者を育成することを目標にしています。建設技術者というと建築士や施工管理といったイメージでしょうか。つまり歳をとっても、AIが発達しても、需要のある人材です。ですが、優秀な建設技術者とはいっても、必ずしもリーダーをめざす必要はありません。それぞれ得意なことがありますから、みんなをまとめ上げる力より、みんなと協力して働く力「協働性」をつけていただきたいです。

田邉 分業が進んでいるからこそ協力する力が必要ということですね。建築士のお話がでましたが、一級建築士などの資格取得について大学との違いはありますか?

堤下 一級建築士の資格を取得するには、専門学校だと2年通った後に4年の実務経験、大学だと4年通った後に2年の実務経験が必要になります。一級取得までの最短年数は一緒なんです。専門学校の場合は、卒業と同時に二級建築士が取得可能になるので、段階を踏んで取得する方が多く、大学の場合は二級を飛ばして一級を受ける方も多いです。どちらが良いということはなく、どう学びたいかですね。

田邉 逆に一級建築士以外だと、どのような資格をめざす学生がいますか?

堤下 一級建築士は設計職をめざす方が取る資格ですね。施工管理職をめざすなら、1級建築施工管理技士などもあります。それぞれが望む資格を取得できるように、オンデマンドも含めて宅地建物取引士などの資格対策講習会に力を入れています。

SESSION 05 修成ならではの 3つの進路サポートとは?

オンライン合同企業説明会 マンツーマンサポートの進路相談

田邉 次に進路についてお伺いします。貴校の学生は卒業後どのような進路を選ぶのでしょうか?

堤下 進路は大きく分けて、「就職・専科進学・大学編入」の3つがあります。従って本校では就職率だけでなく進路決定率を重要視しているんです。3つの進路それぞれを徹底的にサポートし、毎年高い実績を残せるよう努力しています。

田邉 では、それぞれの具体的な内容についてお伺いします。まず就職サポートはどのようにされていますか? 専門学校ならではの工夫など含めてお聞かせください。

堤下 大学生22歳での就職活動と専門学生20歳での就職活動では、少し人生経験が短いですよね。その部分を補う意味でも、本校では一人ひとりに向き合ったマンツーマンサポートをしています。就職ガイダンスや企業説明会はもちろん、履歴書添削、面接指導までクラス担任と進路担当職員が、個別にサポートしています。また建設業界に特化しているので、企業からの求人や募集職種が多いことも強みだと思います。コロナ禍ではありますが学校宛の求人数は毎年伸びていますね。

田邉 そういったサポートや求人数は学生の安心につながりますね。次に専科進学についてはいかがでしょうか?

堤下 本校は一から建設の教育をするので、2年間で建築士の受験科目は勉強できても、受験勉強をするのは簡単ではないです。そこで資格取得に特化した専科を設置し、独自のカリキュラムやオリジナルの模擬テストなどを使って徹底的に対策しています。毎年全国平均を大きく上回る資格取得実績を残せています。もちろん専科の学生にもしっかりと就職サポートをしていきます。

田邉 長年培ったノウハウで独自の対策をされているんですね。次に大学への編入についてもお聞かせください。

堤下 大学編入というのは特殊な対策が必要なので、外部機関と提携して手厚く編入対策をしています。学びを追求したいという学生の気持ちに寄り添うために学習・メンタル面でサポートしており、実際に日本中の大学へ編入実績があります。

田邉 進路に関しても多様な選択肢がありますね。では最後に、貴校の学生には卒業後どのようになってほしいか、考えをお聞かせください。

堤下 やはり自分の夢を実現してほしいです。そして、その時楽しいと思える仕事を続けていってほしいですね。終身雇用もなくなってきた今、働いていて楽しいと思えるかどうかは大切です。夢や、その時々の目標を現実に変えられるように、われわれは学校教育を通して社会貢献できる建設技術者を育成します。学生たちには、主体的に、学生間で協働して、自分の夢を叶える努力をしてほしいですね。